T、伝承する
48年ぶりの地蔵堂の修繕が竣工した。
約一か月半にわたり、大工とは何度も何度も意見を交わし、時には一緒に作業をした。
屋根裏を覗けば、昔の村人たちの苦労や思いが見えた。大きな梁は余計な切り込みが沢山あることから建造時に中古を利用していたことがわかった。今はトタンで覆う屋根も、もとは萱葺きで緩んでいないワラ紐の結び方に感動してしまう。格天井の古い板は、48年前の大修繕で村人が寄付で集った絵画や詩や模様が描かれているため、全て天井裏に収めることにした。
土壁は何度も襲っている地震にも耐え、表層のひび割れは丁寧に補修して白塗りを施した。
腰壁板もやはり古来の素材質が良い。傷みはあるが現代の合板に引けをとらない歪のなさと耐候性があるから丁寧に磨き直して防腐防汚塗装を行った。
床板は従来の板を残し、その上に欅板を重ね、将来傷みやすいだろう縁側は交換可能な工夫をした。
そして今、自分は村人全員で行う供養の日、竣工記念の式典をひかえ、心静かに木版に向かっている。脈々と伝承されてきた地蔵菩薩が描かれる大切な御守をひとつひとつ刷っていく。その時間は無心。一切の欲がない不思議な時間になる。外は大雨でも凛としていて気持ちがいい。
そう、伝承の中継ぎができていることに感謝しなければいけない。
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